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最初の一文

  • 執筆者の写真: 雨
  • 2019年6月23日
  • 読了時間: 2分

更新日:2020年10月18日



手帳を開き、頭に浮かんだ小説のアイディアを書き留める。前後編のタイトルと、わずかなセリフ、シチュエーション。二次創作できちんと設定を決めてから書き始めた小説は過去に2作あるだけだ。処女作と、現ジャンルで書いた初めてのパラレル。それ以外は少しのアイディアとテーマを書き留めただけでパソコンに向かい、文字を打ち始めていた。


小説を書こうという気持ちはあるのに、いざパソコンに向かったらこうしてブログの記事を書き始めてしまった。自分の中で書きたいことが完全に固まっていないので仕方ないと言えば仕方ない。しかし、ほとんどノープランの状態でも、文字を打ち始めれば大抵は何らかのストーリーを書くことができた。


何だか、泳ぎ方を忘れてしまったみたいな気分だ。私は綿密に考えをまとめてから小説を書くタイプではない。これまでは、いつの間にか、自分でも知らないうちにそこへ泳ぎ着くような書き方をしてきた。最初の一文が思いつかない。物語をどこから始めていいのかわからない。書き上げられる予感がしない。


やる気を取り戻しかけたのに、書きたい気持ちがすっと凪いでしまった。このままフェードアウトしてしまいたくなる。「もう小説を書く気はありません」と顔も知らない誰かに向けて宣言してしまいたい。「どうせ止められないのに」と誰かが囁いて、不安定に揺れる。窓の外に曇り空が広がっていて、行き場がない。


深刻にも、大袈裟にもしたくない。自分でもよくわからない心の動きを、文章なんかにしたくないのに。言葉を並べないと落ち着かなくて、気持ちとは裏腹な小気味よいタイプライターの音を聞いている。小説を書くうちに自然とタイピングが速くなった。私のホームポジションは出鱈目だ。それでも一応、ブラインドタッチはできる。


またどうでもいいことを書いてしまいそうになる。頭に浮かんだことをそのまま書いたってろくなことがないとわかっているのに。さっきから「~のに」という表現を使い過ぎている。そうでもない? 最初の一文さえ書くことができれば。そう思っても、たった数行で文章が途切れるイメージが、頭にこびりついて。


とりあえず、「焦らなくてもいい」と自分に言い聞かせる。1000字程度の文章を書いて、今日はそれで満足しておこう。何も書かなかったという罪悪感を少しは誤魔化すことができる。そもそも、私がそんな罪悪感を感じる必要はないというのに。これはブログ記事というより……エッセイなのか? 今の私にはそんなこともわからない。

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