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村上春樹についての雑文

  • 執筆者の写真: 雨
  • 2021年3月4日
  • 読了時間: 3分

更新日:2021年3月10日



先月末、ずっと積読にしていた村上春樹の短編小説集『一人称単数』を読んだ。彼の小説を読むのは久しぶりで、その独特な文体と世界観を「あぁ、こういう感じだったな」と懐かしみながらページを捲った。個人的には『品川猿の告白』が面白かった。どことなく彼が初期に書いていた短編と似た雰囲気だったと思う。


村上さんが書いた小説は(たぶん)全て読んでいるのだが、私は所謂「ハルキスト」という類の人間ではない。みんなで集まって読書会をしたり、小説に出てきた料理を再現して実食するという楽しみ方はしていない。学生の頃、図書館で偶然手に取った『風の歌を聴け』を読み、そこに置いてあった彼の小説を全て読み尽くすくらいにハマってしまったのは事実でも、彼の作品を盲目的に受け入れ、心酔しているわけではない。


彼の小説はもちろん好きだし、これからも新作が出れば読みたいと思っている。エッセイもあらかた読んでいるし『職業としての小説家』は折に触れて読み返したくなるような一冊だ。単純に、私は村上さんの文章が好きなのだと思う。ただ、そこには例外もある。いくらその人の文章が好きでも、興味のない分野について書かれているものだと話は変わってくる。


彼の著作に『意味がなければスイングはない』という音楽評論集があって、過去に一度それを読もうとしたことがある。しかし、活字を目で追うだけで内容が全く頭に入ってこなかった。理由は簡単だ。私はジャズに関する知識が皆無で、さほど興味もなかったからである。いくら好きな作家でも読めない文章が存在することを知った瞬間だった。


それ故、『一人称単数』に収録されている『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』と『ヤクルトスワローズ詩集』は読み進めるのが少々億劫だった(私は野球にも興味がない)。小説という形になっているので内容は理解できたけれど、そうでなかったら読み飛ばしていたかもしれない。作品の優劣ではなく、読む側の興味の問題というのが厄介なところだ。


このブログのテーマである「好きなことだけ書いていたい」と同様に、私は読書においても「好きなものだけ読んでいたい」という思いが強い。昔は好きな作家の本ばかりを読み返して、未読の作家に手をつけることが少なかった。大人になって少しは読書の幅が広がったけれど、根本的な部分は変わっていないのだと思う。


私は、昔も今も彼の小説が好きだ。村上春樹が好きだと言うと妙なバイアスをかけてくる人もいるようだが、小難しいことは抜きにして、単純に読んでいて面白い。「無条件で全部好き」というわけではなく、彼の書いたものなら一度は読んでみようと思える感じだ。彼の作品を嫌う人がいても別に何とも思わない。全ての人に愛され理解されるものなど存在しないし、その人が読みたいものを読めばいいと思う。


長編なら『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、短編なら『タイランド』がお気に入りで、予定のない休日、カフェで読書をするなら『ランゲルハンス島の午後』がちょうどいい。彼が選ぶ海外作家の短編集も魅力的で『バースデイ・ストーリーズ』という翻訳本は素晴らしかった。そうそう、古本屋で見つけた『TVピープル』の単行本を近いうちに読み返そう。

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